No.9「起業したのは社会的企業でした」山形新聞2011.11.6「日曜随想」

 「将来どこでどのように暮らしたいか」

現在の未来創造館の役員となる方々を中心に研究者や金融機関を含み研究会が発足したのは今から6年前である。3年の間毎月議論し、調査・視察を行った。その結論は「自宅」だった。「安全・安心な惨めにならない自宅を作ろう」という発想から生まれたのが、フロントサービス付き賃貸マンション未来創造館である。

この事業は、「社会性」、「事業性」、「革新性」があることから「社会的企業」、「ソーシャルエンタープライズ」とか「ソーシャルビジネス」、「コミュニティビジネス」等と多くの方々から名づけて頂いたが、私はその区別やそれぞれの概念を論じることはできない。

ただ自信を持って言えることは、社会貢献を目的とし、多くの人たちと共に、新たな生き方の提案をしているということである。 本当に大胆な事業始めたものである。入居されている方々から、「良く作ってくれた」、「度胸あるね」、「眠れる?」等と心配して頂いたこともある。何故できたのであろうか。それこそ、社会的企業だからであろう。当たり前だが、私一人で創り上げた訳ではないのであるから。諸兄、諸姉の教えがあってこそであるが、社会的企業の要件に沿って振り返ってみる。 社会性についてみてみる。昨今、年をとっても安心して一生住み続けられる「住まい」の確保は社会的課題となっている。そこで、その課題解決のため施設ではなく、プライバシーやプライドを守られ誇り高く生きることのできる文化的で豊かな暖かい安心・安全な住まいづくりを社会的使命(ミッション)としたのである。自宅だから自由に自分の思うように暮らせる。酒田の会社の社長さんから提供して頂いた土地に建つ建物からは鳥海山や月山が見え、西側には街が広がる。良質な住まいは生活の基盤である。その住まいがあって、はじめて医療、福祉や介護サービスが提供されるのである。

次に事業性である。ミッションを実現するための事業形態としてビジネス手法を取り入れ運営している。日本にはまだ、社会的企業という法人格がないため「株式会社」を選択した。しかも株式会社はNPO法人と異なり、伝統があり制度として整っている。投融資にも適している。株式会社という営利を目的とする法人格をとるが、この法人は利潤の最大化ではなく、社会的使命の達成を最優先する法人とする。

最後に革新性である。新しい仕組みを開発し、社会的課題を解決することに取り組んでいる。株式会社が投融資を受けマンションを建てNPO法人が管理運営をする。企業とNPO法人が協働し、社会性と事業性の両立を図っている。雇用も満たし、福祉のまちづくりに貢献しながら事業を継続していく。更に内容面でも、館内の美化活動やレストランの裏方など障がいのある方々の就労や訓練の場となっており、マンションで暮らすことにより、社会貢献することとなる。また、無償有償のボランティア活動や趣味の教室に参加し生活の充実をはかることができる。勿論この活動は入居者様と共に作り上げたのである。そして、最後まで生き抜くために医療や介護保険、障害者自立支援法など公的な内外の在宅福祉サービスや地域資源を様々に組み合わせ、住み慣れた地域で暮らすことができるのである。

しあわせ作りを目指し、無償ボランティア活動を始めてから23年、有償のたすけあい活動は13年、NPO法人になり11年、株式会社運営開始してから3年がたった。多様な課題解決のために、多様な組織形態や事業形態そして多様な法人格で対応してきている。

新たなミッションへ向けて、今後どのような社会的企業を起こすのであろう。数あるNPO法人の将来が楽しみである。