No.8「科学と日常の出会い」山形新聞2011.10.9「日曜随想」

先日9月29日から10月1日の3日間にわたり、「第37回老人と障害者の自立のための国際福祉機器店H.C.R.2010」が東京国際展示場で開催された。最新の福祉機器20,000点を16か国が総合展示し、国際シンポジウムやセミナー、ワークショップや各ブースの講座もある。主催は全国社会福祉協議会、(財)保健福祉広報協会。今回は、ある作業療法士さんからのお薦めと、福祉用品の会社からのお誘いもあり1泊2日の日程で行くことにした。

日常的な介護の仕事の中で福祉機器を便利に活用している。いつもはカタログやインターネットを見、福祉用品の会社に相談して選ぶ。「もしかしたら物見遊山に行くことになるのかな」等と思いながら行った。ところが、正に百聞は一見にしかず。見る物、手にする物、体験する物すべてが面白くてあっと言う間の2日間だった。展示会には、各国の研究者・技術者、事業者、福祉団体、行政等が集っている。そして、障がいのある方など利用者も多数参加している環境もわくわくさせる。 最初にベッドを見に行った。利用者様にも介護者にも楽なようにベッドが動き、センサーが付き、操作しやすくなっている。体験すると大変心地良く驚く。家庭用と施設用に分かれており、施設用は家庭用にリスク予防、管理機能がプラスされているようだ。

あっという間に午前は終了し、午後の国際シンポジュウムを聴講することにする。テーマは、「ヨーロッパの医療制度改革の動向と評価」講師はフランスのブルーノ・パリエ氏。各国の医療制度の歴史をふりかえり、その特徴と問題点を明らかにし、更に医療成果の国際比較と、具体的改革などが語られた。現在の米国の保健制度導入に関する話も引用され、各国の制度に違いがあることが分かりやすく説明された。その中で印象に残っているのは、「日本は幸せです。更なる課題は、出生率を高めることです。」そして「医は仁術なり」とチューターを務められた近藤氏の締めくくりである。詳しくは著書を参考ください。「医療制度改革―先進国の実情とその課題」ブルーノ・パリエ著近藤純五郎監修、林昌宏訳。

次に出展社ワークショップに参加した。口腔ケアと口腔リハビリ応用編である。研究者が、「口を開けて寝ている介護度の高い方が口から食べられるようになった」という発表をし、その技術を伝達する。口腔内の乾燥と残差物を取り除き、口腔内のストレッチを繰り返す技法で、新しい商品を自分の口で体験し、その効果を確認できた。早速、試供品を活用してみようと思った。 次に経営情報システムで介護記録や報酬計算などのソフト会社を見学した。各社の創意工夫やアイディアに学び、最新技術のアナログへの反映も可能だと思いながら歩いていると、介護食のブースに到着。遅い時間なので既に試食はないが、今話題のソフト食のパンフレットを見ると「庄内から」と書いてある。「鶴岡ですねね。私たち酒田から来ました」とローカルな会話をする。嬉しいものである。1日目は終わる。

2日目は感染症等予防用品からスタートし、入浴用品、移動機器、住宅設備、リハビリ・介護予防機器、トイレおむつ用品、衣料、日常生活用品など。既存の溶剤や技術の応用や便利なアイディアが溢れている。最後のターゲットは子ども広場である。重度の障害をもつ子がたくさんいて、ニコニコしながら嬉しそうに様々な体験をしている。その様子を見て、福祉機器は幸せのために開発されていることを再確認する。発見や発明は地道な研究研鑽の賜物である。

日本人2氏がノーベル賞授与という栄誉に輝いた。2氏とも基礎科学を長年研究され、広く治療薬や液晶材料に産業応用されているとのことである。今後も多くの科学者が研究され、人類の幸せを追求していくことを願う。