No.4「餅屋は餅屋」山形新聞2011.4.17「日曜随想」

4月である。新年度2010(平成22)年度が始まった。昨年度までのまとめをし、今年1度年間の「計」を立てる。ところが、私たち介護の現場は生活なので、切れ目なく日々の仕事が続く。だからこそ、年度で区切り整理をし、先に進む必要がある。私たちの運営しているNPO法人は毎年総会を開催する。前年度の事業報告及び決算報告、今年度の事業計画と予算案、また、理事等役員の改選などについて議論し、決定していく。 つまり、総会は、会員が運営に参加することができる最高の意思決定機能を有するのである。総会の結果は、県庁への報告と税務署への申告となり公開される。もちろん、総会に向けて事前に理事会で検討し、総会に議案を提案する。毎年5月の最終日曜日に総会を予定している。準備する時期に入っている。でも今は、安心して総会を迎えることができる。幸せなことである。つい最近まで大変だった。徹夜してもできず、本当に涙が出る思いだった。 まだ、無償ボランティア活動をしている時は、何十万単位の金額で、出入りも少なく、簡単だったのでよかった。それが、助け合い活動(有償のボランティア活動)が始まると、家を借りたり、ボランティア謝金を計算したり、食材を買ったり、出入りが多くなり、年間予算も百万単位となった。私は、現金と帳簿が合わなくて、よく泣いた。それが、NPO法人になると、「何と!」複式簿記などという高等なことを要求された。「誰がするの?」。そこで、心得のある人に手伝ってもらうことになった。 ところが今度は2000(平成12)年度に介護保険が始まった。書類もすごい量だが、介護報酬をどのように請求するか分からず、結局4月の報酬を手にしたのは8月末だった、でも私はパソコンが好きなのでどこより早くインターネットでの請求に挑戦し、その後はスムーズに進んだ。しかし、苦労は続く。NPO法人あらたは地域に密着した小規模で多機能で細やかな介護を目指している。

00年度、NPO法人あらた「民間介護の家たくせい」には、高齢者のデイサービス、認知症高齢者グループホームと、心身障害者小規模作業所、そして無償のボランティア、助け合い活動の介護や有償福祉移動サービスがあったので、それぞれの会計や書類が必要となった。職員も少数の介護職員のみで、送迎、入浴、夜勤などの介護のほか、歌も歌えば、朗読もするし、散歩もする、お楽しみ活動もする、調理も、事務も、大工仕事もする、というマルチな才能を互いに引き出すこととなる。当時精一杯頑張ってはいたが領収書と現金と帳簿が合わなかったり、書類はコピーするのを忘れて提出し、控えがなかったり、今思うと本当にお粗末な状態であった。さまざまな失敗を繰り返し、自分たちとしては、かなりレベルアップしたと思っていたが、相変わらず会計はグチャグチャで結局、指導していただいている税理士の先生にお願いすることにし、ほっとした。 さらに、どうしたことか、大企業で事務をしてきた人が舞い込んできた。その人の事務処理の姿を見て、自画自賛していた私たちは、目を点にして驚いた。「あー、事務ってそのようにするのね」。今は、キャリアのある専門職の人たちに支えられて法人を運営している。介護職員は、介護にかかわる事務をしながら介護の専門性を高めることができる。 餅は餅屋なのである。

桜の咲くころ、新卒の若者が不安と期待に胸膨らませ、社会に漕ぎ出す。再就職する人たちは職種も変わるかもしれないし、職場も変わる。自分に合うだろうか、合わせられるだろうか。新しい挑戦に不安と期待が入り混じる。当法人にも新卒1人と再就職者数人が入ってきた。新しい出会いである。餅屋になれるよう専門性を磨いてほしい。人との出会いは不思議だ。きっと神様が与えて下さるのだろう。