No.5「ブックスドクター」山形新聞2011.6.26「日曜随想」

実は私の夫は、ブックスドクター(本のお医者さん)をしています。本も治療ができます。先日、兵庫県の西宮阪急百貨店で定期開催している「えほんのお医者さん」に立ち会う機会を得ました。 そのフロアーに行ってびっくりです。「子育てコミュニティールーム」と称され、子育て関連の商品の体験型の売り場です。子育てに関するものは全て揃い、更にさまざまなイベントが定期開催されています。常設の遊び場が売り場と合体してあり、まるで幼稚園か保育園のような雰囲気です。「絵本の読み聞かせ」や「おもちゃづくり」に参加したり、「ピアノと朗読のお話会」や「パパの靴を磨いてみよう」など、さまざまな活動の提案があり、親子や祖父母など家族連れで賑わっていました。 その一画に絵本の領域があります。絵本を販売しているコーナーや絵本を自由に読めるコーナーがあり、そばに、「こどもえほん病院」のコーナーが設置されていました。月に1回酒田から出張します。お待ち頂いているのでしょうか。開催時間に合わせいらしたご家族は、完治したことへのお礼でした。ディズニーの初版本で今は手にすることができず、どれだけ大切な本で、どれだけ喜んだかをお話くださいました。次にいらした方は、大事な卒業アルバムを愛犬からかじられ治して欲しいとのことでした。「昔の本の糊は時がたつとおいしそうな匂いがして、ワンちゃんは間違えたのでしょう」「本にはその本の雰囲気があります。このアルバムにはこのアルバムが持つ雰囲気があります。それに合わせて治療します」「おいくらかかりますか」「治療費は実費分となりますので5000円ぐらいですね」すると旅費分は回収できるのかと心配しながらも、安心して帰っていかれました。社会貢献事業なので、採算は取れませんが、天下国家のために尽くしなさいとの先祖の教えのもと、社会や人の役に立つ仕事、文化に貢献できる活動として、意気を感じてやっているようです。

 

次のご家族は治療した本の受け取りです。兄弟で本の引っ張り合いをして壊したのです。 この絵本は販売されていますので、書店でお求めになった方が安いですよ。治すと倍以上かかりますよ。その分何冊も買えますよ。」と助言すると、「そうではないのです。本を大切にする心を育てたい。物を直しながら大事にすることを教えたい。」とのこと。その完治した本を渡すと兄弟で胸に抱きワーイワーイと本当に喜びました。ご両親の教育方針は実ったのでしょう。素晴らしいご両親です。

今まで頂いたお礼状を見ると心が暖かくなるものばかりでした。 「大好きな昆虫の図鑑が太い糸で製本され、きれいに丈夫になっていました。図鑑を布団の中で読みながら子どもは休みました。」また、「きれいになった本を息子が早速うれしそうに読んでいました思い切って頼んでよかった。ありがとう。」「家族全員で喜んでいます。ボロボロだった背表紙が綺麗に頑丈に治ってきて感謝しています。息子は早速本を開き喜んでいます。」「国語辞典がとどきました。表紙が変更になるのかと思っていたら変わることなく立派な姿になっており驚きました。外れることを気にせず使用することができます。大切にします。ありがとうございます。」「あんなにボロボロだった本が、綺麗に。本の修理は無理だと思っていたから大変喜んでいます」などなど。子どもの本ばかりでなく、多いのが聖書と辞書でした。「重症の治療に格闘して頂き感謝です。クリスマス礼拝でした。懸命なお働きに神様が喜んでいらっしゃいます。」「米国留学中に使用していた思い入れのある齋藤英和辞典」「50年前の亡愛妻がこよなく愛した大英和辞典。」「絶版で入手不可能の本」「美術専門書で学芸員達が非常に良い修復だと驚いていた」など感謝の言葉でいっぱいです。 お金に換えられない宝物。それにかかわれる技術が夫に有って本当によかった。心が豊かになった1日でした。